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2010年02月01日

2010-2 特集/宗教法人の非課税問題と創価学会

宗教法人への税務調査の問題点

立正大学教授(税法学)
浦野 広明

 矢野絢也元公明党委員長が『私が愛した池田大作』(講談社、09年12月刊行)で明らかにした内容を基に創価学会の税務に関する問題点を税法学の観点から検討する。

1.創価学会の税務調査対策
 90年11月20日以後、八尋頼雄氏(創価学会顧問弁護士、副会長)は何回も矢野氏に電話をしてきた。
 電話は創価学会が受けている税務調査に関するもの。次は電話の概要である。
 「○○信託銀行に税務調査」「××証券に池田大作氏、白木かね子氏(=池田香峯子氏、池田氏の妻、池田博正氏(池田氏の長男)、秋谷栄之助(第五代会長)らの個人口座の有無について税務調査」「△△証券に税務調査」
 90年から92年にかけて創価学会に対する税務調査が行われた。矢野氏は秋谷第5代会長から「税務調査をなんとかしてくれ」と頼まれた。何度も固辞する矢野氏に秋谷氏は「この件は矢野にやらせろ、というのは池田先生のたってのご意向なんだ」と説得。矢野氏はとうとう依頼を引き受け、八尋顧問弁護士とともに税務調査対策をすることになった。
 公明党書記長を20年務めた矢野氏は次のように述べている。
 「書記長をやっていると現場の官僚と接する機会も多い。国会での法案審議促進のためにも、よく頼み事にやってくる。こちらの資料請求に対し、説明にやってくるのも彼らである。当時の大蔵省関連で一番大きかったのは、予算案関係であった。予算委員会が紛糾したり、審議が止まってしまったりすると、日程の件で相談が持ちかけられる。公明党がキャスティングボートを握る場面も多かったから、我々がどう動くかで予算成立の日程も変動する。そこで日程調整において、彼らの便宜を図ってやるようなこともあった」
 「そんなわけで、大蔵省の幹部級、国税庁のトップクラスにも旧知の人物がたくさんいた。『なんとか手心を』とお願いしに行くのに、人脈の多い私は適役ということなのだろう」
 八尋顧問弁護士は矢野氏に学会側の譲れない点として次の6項目を記載した紙を渡した。
 (1)?―ゞ桔/佑慮?益事業会計部門には絶対立ち入らせないこと
 (2)会員の「財務」における大口献金者のリストを要求してくるだろうが、絶対に撥ねつけること
 (3)財産目録を提出しないこと
 (4)池田氏の秘書集団がいる第1庶務には調査を入れさせないこと 
 (5)池田氏の「公私混同問題」について絶対立ち入らせないこと
 (6)学会所有の美術品には触れさせないこと
 矢野氏の「奮闘」の甲斐があり、墓石販売を課税対象とすることで税務調査は決着をみた。1988年〜1990年までの3期について、所得の申告漏れ約24億円、創価学会は6億円を超える追徴税額を支払った。
 矢野氏は次のように述懐する。
 「八尋氏から示された『絶対さわらせない6項目』と池田氏がらみの核心部分はギリギリのところで先送りされた。私もなんとか、自分の役割を果たすことができた。これについては『やったという高揚感は少しもなかった。国会議員たるものが、国税に圧力をかけるなど国民への背信行為だ。ほとんど犯罪的ですらあると自覚していた。今でも慙愧の念に堪えない。また、国税調査を通じて知りえた学会経理の醜悪さには、反吐が出るような思いだった。『これが我が学会なのか』と不信感を覚えた」
 創価学会が3期分の修正申告をした時期は最悪の大衆課税である消費税の導入と密接な関係がある。つまり、竹下内閣は1988年12月24日に消費税法を強行採決し、翌89年4月1日から同法を実施したのである。創価学会に対する税務調査の安易な決着は悪税法成立のための国会対策があったのであろう。
 憲法前文は「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と規定している。一団体の私利私欲のために国政がゆがめられることは許されない。
 「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」(憲法15条2項)。のである。

2.国税庁の創価学会への税務調査の必要性
 税務職員には各税法に関して税務調査の権限がある。
 例えば、法人税法153条は「国税庁の当該職員又は法人の納税地の所轄税務署長しくは所轄国税局の当該職員は、法人税に関する調査について必要があるときは、法人に質問し、又はその帳簿書類その他の物件を検査することができる」と規定している。
 税務調査権は、法人税についていえば「法人税に関する調査について必要あるとき」に行使することにある。つまり、法人税法は、「必要があるとき(調査の合理的必要性の理由)」調査ができるとしており、税務署の勝手な判断で調査に手心を加えることができるわけではない。「調査の合理的必要性の理由が存在する」場合には調査をしなければならないのである。
 法人税は申告納税制度を採用している。この制度の下で納税者は自分の税金を自分で決める。申告に間違いがあり、申告以外に納税義務のあることが相当程度の確実性をもっている場合には調査の必要性がある。税務調査に政治決着などありえない。

3.宗教法人非課税の必要性と問題点 
 古くはイギリス権利章典(1689年制定)において、「信仰の自由は、権利章典の第1条である」という言葉が示すように、宗教を信じ、信仰を告白し、布教活動を行う個人・団体(教会・寺院・神社)の自由は信教の自由である。信教の自由は人権条項の中核なす。日本国憲法はこのことを明言し、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」(20条)と規定している。法人税法においても信教の自由を保障する規定を置いている。
 宗教法人は、収益事業からなる所得に対してのみ低税率で課税されことになっている。
 法人税法は「収益事業」について、「販売業、製造業その他政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいう」(2条13号)と定義している。法定業種目については、法人税法施行令5条が次の34種を制限列挙している。これらに該当しない事業は「収益事業」とはならない。
 1.物品販売業 2.不動産販売業 3.金銭貸付業 4.物品貸付業 5.不動産貸付業6.製造業 7.通信業 8.運送業 9.倉庫業 10.請負業 11.印刷業 12.出版業 13.写真業 14.席貸業 15.旅館業 16.料理店業その他の飲食店業 17.周旋業 18.代理業 19.仲立業 20.問屋業 21.鉱業 22.土石採取業 23.浴場業 24.理容業 25.美容業 26.興行業 27.遊技所業 28.遊覧所業 29.医療保健業 30.技芸教授に関する事業 31.駐車場業 32.信用保証業 33.無体財産権の提供等の事業 34.労働者派遣業
 ある事業が収益事業に該当するかどうかは、当該法人等の目的、性格、規模等を総合勘案して全体的視野から判断すべきである。ある行為それだけをとり出した場合、形式的には「収益事業」に該当しなくても、全体的にみたら、収益事業として理解するのが妥当である場合がある。このような場合に当該行為を非収益事業と認定することは、法の合理的な解釈・適用を誤ることとなる。

4.創価学会非課税の問題点
 矢野氏は以下のように述べる。
 「以前には民社党から追及された、『池田氏専用豪華施設』があった。池田氏しか使わない施設なのだが、所有はあくまで学会である。いくらなんでも豪華すぎる、課税すべきでないかと民社党が指摘したのも当然で、慌てて『資料室』などに作り替えることになった。あのときも国税対策だったのだが、根本的な問題は何も改められていない」
 「公私混同問題は、まだいくらでも残されていた。例えば美術品問題がある。池田氏はお眼鏡にかなった美術品を世界中から買い集めていたが、購入は学会の会計だった…管理も曖昧で高価な絵画が、いつのまにか池田氏宅に飾られていたというようなケースもあったようだ」
 「裏金の問題もあった。全国の会員から集められる浄財=財務は、一説によると年によっては年間2000億円を超えるという…集められたその膨大な資金は、どこでどう使われているか誰にもわからない。裏金としてプールされている資金も相当な額に上るといわれているが、それがどのくらいか見当もつかない」
 「非課税の資金を給料の原資として学会本部職員や、非課税の資金で建てられた学会施設が、選挙のとき総動員態勢になるのは税法上どうなのか、という問題もある」
 創価学会の選挙総動員に関してはフリーライターの岩城陽子氏が本誌で次のように述べている(2005年7月1日号)。
 「2月から始まっていた『都議選完勝』の会合…都議会選挙が目前に迫った。今年も各地で地方選挙が相次いでいるなか、創価学会・公明党はとくに都議選に力を注いできた。2月4日、創価学会では戸田記念講堂(巣鴨)で総東京の男子部部長会を開いて都議選『完勝』を訴えた」
 創価学会は日ごろから「創価学会と公明党は政教分離している」のだと説明している。この建前からすれば、選挙必勝の会議は、創価学会内部の公明党員もしくは公明党後援会員が行なっていることになる。この行為は収益事業のなかの席貸業に該当することになろう。つまり、創価学会が公明党員もしくは公明党後援会員に選挙運動の場所を提供しているということになる。
 法人税法22条2項は、法人の益金の額に算入すべき金額は、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けなどの収益の額とすると規定している。したがって無償で会館を使用させていても、時価相当額を創価学会の収益事業収入に計上しなければならない。
 数多くの施設に池田氏専用豪華施設があるという。専用施設の場合、池田氏にはその専用施設の取得、利用に係る経済的利益の時価評価額の雑所得が生ずる。同時に創価学会側は、不動産貸付業として収益事業収入に計上することになる。
 消費税は、個人や法人が、事業として対価を得て行う資産の譲渡および貸付け並びに役務の提供について課税される。創価学会側に席貸業や不動産貸付業の事実があるとしたら、消費税の課税も生ずることになる。
 創価学会は宗教団体だということで固定資産税・都市計画税がかからない。
 固定資産税・都市計画税が非課税となるのは、「宗教法人がもっぱら本来の用に供する境内建物や境内地」に限られる。宗教法人の施設が恒常的に選挙活動や個人専用の用に供しているとしたら、それはもはや「宗教法人がもっぱら本来の用に供する」施設とはいいがたい。そうした場合には、非課税の適用はない。
 地方税法408条は、「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならない」と規定している。つまり、市町村長は、固定資産の現況の正しい把握の義務を負っている。
 税務調査の現場では、「弱きをくじき、強きを助ける税務行政」ということが公然と言われており、政治家や政権に大きな影響を与える団体への調査が甘い。
 税務署長や市町村長は、憲法および税法令に基づいて厳正に税務行政を行うことが義務づけられている。課税しなければならない事実があるのにこれを放置しているのは税務行政の怠慢であり、不作為による違法行政である。およそ公務員は憲法および法令に従わねばならないのである。
 落合博実氏(元朝日新聞編集委員)は著作において、税務署の公示によって知った創価学会の収益事業に係る申告所得金額を発表している。それによれば2002年=約143億2000万円、03年=約181億1000万円、04年=約163億5000万円となっている。公示制度があればこそ知りえた所得である。
 申告書公示制度は、所得税、法人税、相続税の申告書が提出された場合、その申告書に書いてある税額、課税対象金額が一定額を超えるものについて、税務署がその納税者の住所・氏名、税額などを一定期間公示するものであった。この制度は1950年に導入したもので、公示によって第3者のチェックを受ける効果を期待したものである。
 自民・公明両党はこの申告書の公示制度を06年度税制改正によって廃止した(06年4月1日以後)。廃止理由は、個人情報保護法施行を機に、国の行政機関が保有する情報の一層適正な取り扱いが必要だというものだった。こんな理由は政治家や巨大宗教法人には当てはまらない。公示制度の廃止により、創価学会の収益事業に係る申告所得金額などはまったく知る手立てはなくなった。
 公示制度は、所得税は所得税額が1000万円超、相続税は課税価格2億円超、贈与税は課税価格4000万円超、法人税では所得の金額4000万円超、が基準となっていた。
 公示制度は「国民の知る権利」の保障である。とりわけ、収益事業によって高額な所得が生ずる宗教法人の所得公示を廃止する理由などまったくない。自公は公示制度を廃止して高額所得者である政治家や巨大宗教法人の収益を隠蔽した。この制度は一刻も早く復活すべきである。

浦野広明(うらの・ひろあき)立正大学法学部教授、税理士。1940年生まれ。中央大学経済学部卒。朝日新聞等の新聞・週刊誌などへの執筆をはじめ、税務・会計に関して、全国各地での講演、裁判での鑑定・証言、新聞・雑誌・TVでのコメントなど幅広く活躍。著書に『現代家庭の法律読本』(岩波・共著)『これでいいのか税務行政』(あゆみ出版・共著)『Q&A納税者のための税務相談』『納税者の権利と法』『新・税務調査とのたたかい』(共に新日本出版社)『争点相続税法』(勁草書房・共著)など。

投稿者 Forum21 : 2010年02月01日 07:51

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