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2009年03月01日

2009-3 特集/創価学会をめぐる「客観・中立」の立ち位置を問う

学会員に売れるはず! 牽強付会まみれの必読書? 

ジャーナリスト
野田峯雄

 “中立”をウリに売れ行き上々の『池田大作の事』

 中規模出版社の飛鳥新社が2月5日付で刊行した『池田大作の事』という本の売れ行きが上々だとか。同社の「創立30周年記念出版」とのふれこみである。としたら、ずいぶん気合いを入れてつくった本に違いない。著者は千葉隆氏だ。とはいえ千葉氏本人の書き下ろしではない。飛鳥新社の土井尚道社長が自ら千葉氏に対するインタビュアーとして立ち、彼の繰り出す全143の質問に千葉氏が回答し、それを別のライターがまとめる形をとっている。
 土井社長はわざわざ同本の冒頭(序に代えて)にも顔をのぞかせこんなふうに語る。
 「私が世間になり代わって、学会や池田大作に抱く違和感や批判をぶつけるから、千葉さんはそれに反論しなさいよ。その言い分が私たちを納得させたら、本にしましょう。しかし、客観的に見て牽強付会の説明しかできないならこの話はボツにします」(と、あらかじめ千葉氏に話した)
 つまり土井氏は世間になり代わり、さらに「序」の執筆の代役もつとめたりしてやたら忙しい。ひどく燃えている。彼はこう続ける。
 「私たちとは、原稿をまとめてくれた都築智氏と、編集の労をとってくれた小山晃一氏の三人です。我々は宗教とはまったく無縁の人間で、ともに学会に対して批判的な考えを持っています」
 土井氏たちが宗教と縁があろうとなかろうと、また池田にしがみつこうと、池田に批判的であろうと、そんなことはどうでもいい。このたぐいの本づくりで重要なのは客観的データの集積と駆使、冷静な対象の分析と総合化の能力など、そして何よりも色目を使わない姿勢である。土井氏は何を訴えたいのか。まず、身を乗り出すようにして「これは池田礼賛本でも池田批判本でもないよ」と強調する。きっと彼なりに“中立?c体裁本がウリのポイントと判断したのだろう。
 中身はどうなのか。土井氏が質問する。と、千葉氏が「火を噴くような『折伏』的反論」(土井氏)を展開したよう。はて? 「折伏」的反論とは。世間になり代わっていえば、なんだかちゃきちゃき学会さんの呪言じみていてかなりヤバそう。でも、土井氏が伝えたいのはどうやら「カッカッと燃えるけれど“牽強付会なんかとは別もん”だよ」、らしい。

 本当に「牽強付会はない」?

 ちょっと気になるのは土井氏と千葉氏の結びつきの端緒である。土井氏が新聞事業(『日刊アスカ』の刊行)に手を染めて頓挫し金策に走りまわらざるをえなくなったとき千葉氏が現われた。……あァ、いわゆる仲人は「カネ」か。やはり池田大作のあれこれを語るときの前奏曲はこうでなくっちゃ。私(野田)の知る若き土井氏は、遊び人っぽくてたとえば東へ西へ風に吹かれているようなところがあったけれど、あれから30年有余、飛鳥新社を成長させる過程で彼独自の“遊び?cのスタイルも相当したたかなものになったようだ。
 いずれにしろ土井氏は、千葉氏の「反論」が牽強付会なんかではないと判断したのである。だからこそ四六判の約420ページの本をつくったわけだが、それにしてもなぜだ、書籍販売業界の関係者によると「信濃町筋(学会員)の買いがずいぶん入っている」という。むろん読者は多いほどいい。また読者がどんな色彩に染まっていようと、それをあれこれ言うのはアホだ。しかし、学会さんたちのいままでの本の購買行動をみると、とにかく「センセーのためにならない記事(雑誌や新聞や本など)」はすべて敵なのである。敵に対してはドッとばかり襲いかかって、「戦いだ!」「叩け!」「迎え撃つのだ!」「勝たねばならぬ!」(いずれも池田大作の常用語)。
 しかし彼らが『池田大作の事』の買いにまわっているということは。どんなメカニズムが働いているのか。土井氏の強調する「牽強付会」は、ありやなしや。千葉氏の「火を噴く『折伏』的反論」とは。
 千葉隆氏。ひたすら池田大作を信奉している創価学会員である。が、とくに学会内の重要な役職に就いている、もしくは就いていたわけではない。過去に「ライベックス」という会社(ディベロッパー)を経営し年商300億円ほどの規模にまで拡大させた。でも、92年に破産宣告を受けてしまう。とたんに、法廷などであばかれたのがマンションやホテルの部屋を対象にしてどんどん投資させる詐欺もしくは詐欺的な商法だった(この仕組みについてはインターネットなどで調べていただきたい。裁判=有罪)。そしていま、彼は「詐欺師ではない」などと強く否定し、あまつさえこんなふうにうそぶいてもいる。
 「学会の折伏は、相手を説得し、腹の底から信じてもらうということですから、そのつもりでお客さんと接していったら、物を売るのはそれほど難しくありません」

 「とどめを刺す」のが慈悲

 もしかしたら千葉氏はしばしば変性意識状態に陥ってしまう、あまりよくないクセを持っているのではと心配になる。約420ページのいたるところで延々と、ついプッと吹き出してしまうが、すっかり「池田大作」や「創価学会および公明党の最高幹部」になりきってしまうようなのだ。おまけに「反論」の根拠のほとんどが池田大作の著書などからの引用だから驚くほかない。つまり断定と推測と妄想の混濁、短絡、自身の思い込みの強引な押し付け、ハンチク知識のひけらかし、ワケ知り講釈、ウソ、威嚇、さらに「牽強付会」を平然と繰り広げて飽きないのである。残念なことにこのレポートの紙数にはかぎりがありそれらのすべてを並べることができない。だからとりあえず目についた部分だけとりあげたい(以下の千葉発言=骨子)。
 創価チームが元公明党委員長の矢野絢也氏を脅している件について千葉氏は、「池田先生は(矢野氏を)宿命転換させ、立ち直らせたいのだ」、つまり「慈悲」ゆえだと説明し、「(矢野氏は)このままでは、生命の因果の悪循環に巻き込まれる。子孫末代まで」と予言する。また、池田たちが大石寺と争うのも「池田大作、創価学会の慈悲である」「深い慈悲です」、「(だから)しつこくなる」。さらに、こんなふうにも言う、「戦って倒せば、とどめを刺す。それをやってあげないとダメなんです。とどめを刺して、生まれ変わらせてやるのが慈悲というものなんです」。で、麻原オウムは殺人をおかし続けたのだった。

 “中立”の仮面かぶった悲しきデマ本

 千葉氏は、根拠不明のまま、「創価学会トップが池田家の世襲になることはありえない」と断言してみせる。池田大作の女性スキャンダルについては「皆さん、本当だと思っているのか。池田先生についてそういう質問をするのはボケている」とののしり返す。池田の創価王国発言については「そんな発言なかったと思いますよ」としらばっくれる。
 フランスで創価学会インタナショナル・フランスが「カルト」としてリストアップされている件に関しては、「創価学会の名は削除されている」と言い、余勢を駆って「(リストアップは)中華思想に凝り固まったフランス人が警戒感を顕わしただけ」と“フランス人”を嘲笑する。しかし、千葉さん、削除なんかされていないよ。依然として創価は「カルト」なのだ。千葉氏よ、フランスの首相直轄の組織MIVILUDESのホームページを覗きなさい。事実がそこにある。
かつての言論妨害事件を「池田先生は謝罪したのではない」「全く反省をしていないどころか、これからもどんどん言論戦を展開しろというのが先生や学会の見解」。集団的な脅迫行為などについては、「警察、自衛隊にも犯罪者はいる。その犯罪者は組織の代表ではない」「尾行されているかどうかは本人の主観的な問題」だってさ。他方、なんと「池田先生は我々とは次元の違う境涯に生きているのです」。
 これじゃあねえ。土井氏が痛々しくなる。いや、彼の143の、池田大作が嫌がるであろう質問は奇妙な千葉放言としっかりお手々をつないでいる。ようするにこの本は、正確には“中立”という仮面をかぶった哀しき池田大作製デマ本のひとつ。牽強付会まみれ学会員のまさに必読書である。売れるわけだ。

野田峯雄(のだ・みねお)フリージャーナリスト。1945年生まれ。同志社大学卒。週刊誌や月刊誌等を舞台に国内外の政治・経済・社会問題等をレポート。近著書に『闇にうごめく日本大使館』(大村書店)『池田大作金脈の研究』(第三書館)『破壊工作―大韓機“爆破”事件の真相―』(宝島社文庫)など多数。

投稿者 Forum21 : 2009年03月01日 20:40

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