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2008年10月08日

2008-10 特集/池田大作を守るため――政局を揺さぶる創価学会

小沢民主が自・公政権と鮮明な対決
自民に弔鐘、小泉引退、中山辞任が拍車

川崎泰資 元・ NHK記者

 去年の「逆転の夏」から今年の「政権交代の秋」を目指す小沢民主党が、公明党との運命共同体を一層深めた麻生自民党と、「政権選択」をかけた総選挙がいよいよ迫ってきた。
 選挙で票を回してもらうため、「政党の良心」を公明党・創価学会に売り渡し続けたツケが遂に自民党の命取りになるのだろうか。自民党は結党以来、1993年の細川政権、羽田政権のごく短期間を除いて、1にアメリカ依存、2に財界、官界依存で利益誘導型の事実上の独裁政治を続けてきた。これが変わったのは10年前の公明党との連携から自・公連立政権へと転じた結果による。公明党・創価学会が3番目の依存先として浮上した。
 公明・学会は、最初こそ「下駄の雪」のように自民党にどこまでもついていき政権の旨味を享受する受け身の姿勢だったが、自民党の選挙の弱みに付け入り自己主張を強め始めた。選挙の際の学会票のやり取りで選挙区は自民党候補に入れるが比例は公明党と書く前代未聞のバーター取引を自民、公明が完成させたことで様相は一変した。福田辞任から麻生政権誕生までの政変は公明・学会の威力を余すところ無く見せつけた。
 選挙が近いとあって、弱体化した自民党の学会依存体質がむき出しになり、補正予算のバラマキも臨時国会の開会時期も、さらには首相の最大の権限の解散総選挙の時期まで公明党は自らの言い分を通し、これを受け入れた幹事長の麻生が新総裁・総理になった。福田に代わって麻生政権を望む公明の人事への介入までが平然と行われた疑いが濃い。
 下駄の雪だったはずの雪が、いつのまにか下駄の履き手を替える面妖なことが起きた。自民党にとって学会の票が麻薬の役割を果たし「生命維持装置」になった今の自・公政権は、白川勝彦の指摘するように自・公連立というより「自公合体」政権と呼ぶのがふさわしい。

 麻生政権と自・公の行き詰まり

 自公政治の行き詰まりへの反省もなく、総裁公選と称して国内を田舎芝居のように巡る5人の候補者の一座が、心ある国民の失笑を買ったのは当然である。この政治空白の期間にも汚染米が学校給食や老人施設、さらには菓子や酒の製造業に流され、「消えた年金」の調査遅れに加えて、役人の組織的な不正、つまり犯罪をうかがわせる「消した年金」が多数浮上している。さらにアメリカの金融不安は日本を直撃した。
 こうした中での麻生新内閣は、平均年齢こそ若返ったが、首相の子供や孫が4人も入る世襲政治家集団となり、総裁選の論功行賞と右翼的傾向の文教族のお友達を集める一方、選挙用として34歳、当選3回の女性議員を起用するに至っては顰蹙ものだ。それだけでなく省庁再編の行革で大蔵省から分離した金融庁を、今度の組閣で中川昭一を財務、金融の兼務閣僚に発令し独断専行する、やりたい放題を見せつけた。
 そのツケは中山国土交通相が成田空港反対派はゴネ得、日教組解散等の極めつけの暴言を吐き、僅か5日間で辞任に追い込まれたが、これは本来、首相が罷免するのが筋だ。
 首相指名後の所信表明演説で麻生は「かしこくも御名御璽」をいただき首相に就任したと述べ、戦前と現在を混同させるはなはだしい時代錯誤をみせたが、これは中山の歴史観と同一線上にある認識だ。同じ穴の狢が中山を罷免できる訳がない。その所信表明演説は麻生政権の理念や政策、ビジョンを示すことなく、ねじれ国会後の民主党の国会対応をなじり、民主党に対する質問のオンパレードになった。異例異質というより、品格に欠け選挙演説さながらであった。

 小沢民主が「所信表明」演説

 安倍・福田と続けて任期途中で政権を投げ出した自民党の無責任さは最早、個人の資質の問題でなく自民党という政党の構造的な問題といえる。小沢民主党代表は「自民党の首相は政権を投げ出すことはできても、国民は生活を投げ出すことはできない」という就任演説の延長線上に麻生首相への代表質問を行った。主客転倒の「逆転の構図」だ。小沢は麻生の所信という名の代表質問を民主党への誹謗中傷であるとあえて答えず、逆に民主党が政権を担った場合の政権公約を自らの「所信」として表明した。
 小沢代表はこの中で「新しい生活をつくる5つの公約」として、政権を取れば道路特定財源の暫定税率を撤廃しガソリン税を25円/リットル引き下げ、後期高齢者医療制度を廃止し、こども手当を月、2万6000円支給、高速道路料金を無料化、郵政民営化の見直し、食糧自給率を上げるため農林漁業に「所得補償制度」を創設するなどを公約に掲げた。これを3段階に分けて実施し、その財源、約20・5兆円は、一般会計、特別会計の予算を劇的に組み替えて捻出するとした。
 要は天下りや税金の無駄遣いをなくし、税金を官僚から国民の手に取り戻すことで財源を生み出すとし、責任政党としてできないと批判する与党に反撃し、速やかに国会を解散し国民に信を問うべきだと迫った。
 麻生内閣の支持率が福田政権発足時より低く、さらに中山暴言でその船出は荒れ模様、しかも麻生が初の所信表明で喧嘩腰の演説を行ったことで対決色は一層、強まった。

 小泉路線からの脱却は

 小泉は「自民党をぶっ壊す」をスローガンに、政権を握り、郵政民営化を単一の争点にして国会での多数を握った。しかし小泉の壊したのは自民党より先に、日本社会だった。構造改革の美名の下に、規制緩和の名を借りて雇用ルールを破壞し、労働者の3人に1人が非正規雇用に追いやられた。将来に希望がもてない若者が、住む家もなくネットカフェに集まり、「ネットカフェ難民」の新語を生んだ。格差社会は拡大の一途をたどり、働いても働いても暮らしが成り立たない平成の「蟹工船」が話題になり、「名ばかり管理職」が増える一方で大企業や金持ちが潤う政策が平然と進んだ。
 1年間に3万人の自殺者が出る救いのない世相のなか、07年の参議院選挙で自民党が歴史的大敗を喫したのは小泉改革への国民的反乱とも言える。
 自民総裁選で小泉が改革派として推した小池百合子が惨敗し、麻生政権の誕生で小泉は次の選挙に出馬せず引退すると表明したが、自らの後継に次男を指名し唖然とさせた。国民に改革に伴う痛みを強いながら、自らは息子に地盤を次がせるいい加減さだ。これでは風刺コメント集団「ニュースペーパー」の「鼻筋は通っているが、話の筋が通らない小泉」という揶揄がいかに適切であったかを証明することになる。

 民意尊重の政治を

 去年の夏、参院選挙で民主中心の野党が多数を占めた結果、自・公政権が当然としてきた腐敗が明るみに出され、政治に風穴があき、ネジレ現象の効果を国民のものにした。参院で否決された、インド洋での給油活動を継続するテロ対策特別措置法、道路特定財源の暫定税率を維持するため、自・公連立政権は法案を衆院に戻し3分の2の多数で再可決するという国民の民意を無視する荒技を3度、強行した。
 参院の多数、つまり直近の国民の民意は、自・公政権のやりすぎを咎めているのに、それに逆らって強引に衆参両院で多数を得ていた時代と同じことをするのが善で、反対するのは悪であるとする。これが自公合体政権の実態なのだ。
 さらに会期を短くしたのは、創価学会を言論妨害や名誉棄損で訴えている矢野絢也元公明党委員長の国会喚問をなんとしても阻止したい思惑があったと見られ、公明党が池田大作を守ることを最大の目標にしている宗教団体と政教一致の活動をしていることを明らかにした。
 メディアが自民の公明・学会依存の本質に迫らないことが、自民2度の政権投げ出しや麻生政権誕生の核心を国民の目から遠ざけている。これでは、「メディアあってジャーナリズムなし」と言われても止むを得ない。体制維持を目論むジャーナリズムに未来はない。(文中・一部敬称略)

川崎泰資(かわさき・やすし)元NHK記者。1934年生まれ。東京大学文学部社会学科卒。NHK政治部、ボン支局長、放送文化研究所主任研究員、甲府放送局長、会長室審議委員、大谷女子短大教授、椙山女学園大学客員教授を歴任。著書に『NHKと政治―蝕まれた公共放送』(朝日文庫)『組織ジャーナリズムの敗北―続・NHKと朝日新聞』(岩波書店)など。

投稿者 Forum21 : 2008年10月08日 20:45

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