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2006年08月15日

特集/創価学会と国税庁税務調査

創価学会への課税問題
課税放置は税務行政の不作為(怠慢)の違法

立正大学教授(税法学) 浦野広明

 落合博実氏(ジャーナリスト)が『文芸春秋』(06年8月号)に創価学会の税務調査に関する「国税『創価学会調査記録』を入手」(以下「落合論考」という)なる論考を発表した。落合氏は94年初め国税庁幹部から〈10年間の完全封印〉を条件に創価学会に関する税務調査の・文書を渡されたのだという。
 当時、落合氏は朝日新聞編集委員として国税庁への取材活動にあたっていた。本稿は落合論考を素材に創価学会の租税問題について述べるものである。

 公示制度を廃止

 法人諸税(法人税、法人住民税、事業税)は、法人の種類によって、課税所得の範囲や税率が異なる。株式会社は、普通法人に区分され、すべての所得について原則として普通税率(30%)で課税される。一方、宗教法人は、公益法人に区分され、収益事業からなる所得に対してのみ低税率(22%)で課税される。
 落合論考は、税務署の公示によって知った創価学会の収益事業に係る申告所得金額を発表している。02年…約143億2000万円、03年…約181億1000万円、04年…約163億5000万円だそうである。
 公示制度があればこそ知りえたのである。
 申告書公示制度は、所得税、法人税、相続税の申告書が提出された場合、その申告書に書いてある税額、課税対象金額が一定額を超えるものについて、税務署がその納税者の住所・氏名、税額などを一定期間公示するものであった。
 与党(自民・公明)は「平成18年度税制改正大綱」(05年12月15日)で〈公示制度について、本来の制度目的とは異なる用途に使われている等の指摘を踏まえ、廃止する〉と述べた。そして、この申告書の公示制度は06年度税制改正によって廃止された(06年4月1日以後)。
 従来、公示制度によって、所得税の場合、所得税額が1、000万円超の者が対象となり、上位者は「高額納税者番付」などとして報道されてきた。公示の基準は相続税では課税価格2億円超、贈与税では課税価格4、000万円超、法人税では所得の金額2、000万円(事業年度が6ヶ月を超える場合には4、000万円)超、が基準となっていた。
 この制度は1950年に導入されたもので、公示によって第3者のチェックを受ける効果を期待したものである。個人情報保護法施行を機に、国の行政機関が保有する情報の一層適正な取り扱いが求められるとして公示制度は廃止された。
 これにより、先の創価学会の収益事業に係る申告所得金額などはまったく知る手立てはなくなった。公示制度は「国民の知る権利」の保障である。とりわけ、高額な所得がある公益法人の所得公示を廃止する理由などまったくない。与党は公示制度を廃止して高額所得公益法人の所得を隠蔽してしまったのである。

 選挙活動と収益事業課税

 先に述べたように宗教法人は、公益法人に区分され、収益事業からなる所得に対してのみ低税率で課税される。
 法人税法は「収益事業」について、「販売業、製造業その他政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいう」(2条13号)と定義している。法定業種目については、法人税法施行令5条が次の33種を制限列挙している。これらに該当しない事業は「収益事業」とはならない。
 1物品販売業 2不動産販売業 3金銭貸付業
 4物品貸付業 5不動産貸付業 6製造業
 7通信業 8運送業 9倉庫業 10請負業
 11印刷業 12出版業 13写真業 14席貸業
 15旅館業 16料理店業その他の飲食店業
 17周旋業 18代理業 19仲立業 20問屋業
 21鉱業 22土石採取業 23浴場業 24理容業
 25美容業 26興行業 27遊技所業 28遊覧所業
 29医療保険業 30技芸教授に関する事業
 31駐車場業 32信用保証業
 33無体財産権の提供等の事業
 落合論考によれば、創価学会の収益事業収入の大半は聖教新聞購読料と広告収入だという。
 創価学会は全国に多数の会館や講堂等の施設を有する。そこでは選挙に関する会合がもたれているという。その様子はフリーライターの岩城陽子氏が本誌で次のように述べている(2005年7月1日号)。
 〈2月から始まっていた「都議選完勝」の会合……都議会選挙が目前に迫った。今年も各地で地方選挙が相次いでいるなか、創価学会・公明党はとくに都議選に力を注いできた。2月4日、創価学会では戸田記念講堂(巣鴨)で総東京の男子部部長会を開いて都議選「完勝」を訴えた〉
 創価学会は「創価学会と公明党は政教分離している」のだと説明している。この建前からすれば、選挙必勝の会議は、創価学会内部の公明党員もしくは公明党後援会員が行なっていることになる。この行為は収益事業のなかの席貸業に該当することになろう。つまり、創価学会が公明党員もしくは公明党後援会員に選挙運動の場所を提供しているということになる。
 法人税法22条2項は、法人の益金の額に算入すべき金額は、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けなどの収益の額とすると規定している。したがって無償で会館を使用させていても、時価相当額を創価学会の収益事業収入に計上しなければならない。

 池田氏専用施設

 落合論考は、東京国税局OBが次のように語ったと述べている。
 〈会館や研修所などの施設に『池田専用施設』が設けられ、完全に名誉会長の個人的使用に供されているものである……池田氏が月に何回か使う程度では『池田氏専用』とは、到底認定できませんでした〉
 数多くの施設に〈専用施設〉があるのだとしたら、月に何回かしか使用できないのが当然であろう。使用回数ではなく実態を見て専用施設の判断をしなければならない。仮に専用施設だとしたら池田氏にはその専用施設の取得、利用に係る経済的利益の時価評価額の雑所得が生ずる。同時に創価学会側は、不動産貸付業として収益事業収入に計上することになる。
 消費税は、個人や法人が、事業として対価を得て行う資産の譲渡および貸付け並びに役務の提供について課税される。創価学会側に席貸業や不動産貸付業の事実があるとしたら、消費税の課税も生ずることになる。
 落合論考は、
 〈共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が〇一年に行なった調査によれば、学会は「東京・新宿区内に、判明分だけでも七十カ所五万三千四百平方メートルの敷地(東京ドームグラウンドの四個分、推定地価四百七十九億円)を所有し、その六割以上を固定資産税・都市計画税を納めない非課税対象にしている」という〉
 と指摘している。
 固定資産税・都市計画税が非課税となるのは、「宗教法人がもっぱら本来の用に供する境内建物や境内地」に限られる。宗教法人の施設が恒常的に選挙活動や個人専用の用に供しているとしたら〈宗教法人がもっぱら本来の用に供する〉施設とはいいがたい。そうした場合には、非課税の適用はない。
 地方税法408条は、
 〈市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならない〉
 と規定している。つまり、市町村長は、固定資産の現況の正しい把握の義務を負っている。
 税務調査の現場では、「弱きをくじき、強きを助ける税務行政」ということが公然と言われており、政治家や政権に大きな影響を与える団体への調査が甘い。落合論考も財務省キャリアだった国税庁OBが、「はっきり言って公明党が与党にいる限り、気を使わざるをえないでしょう」と言ったと述べている。
 税務署長や市町村長は、憲法および税法令に基づいて厳正に税務行政を行うことが義務づけられている。課税しなければならない事実があるのにこれを放置しているのは税務行政の怠慢であり、不作為による違法行政である。およそ公務員は憲法および法令に従わねばならないのである。

浦野広明(うらの・ひろあき)立正大学法学部教授、税理士。1940年生まれ。中央大学経済学部卒。朝日新聞等の新聞・週刊誌などへの執筆をはじめ、税務・会計に関して、全国各地での講演、裁判での鑑定・証言、新聞・雑誌・TVでのコメントなど幅広く活躍。著書に『現代家庭の法律読本』(岩波・共著)『これでいいのか税務行政』(あゆみ出版・共著)『Q&A納税者のための税務相談』『納税者の権利と法』『新・税務調査とのたたかい』(共に新日本出版社)『争点相続税法』(勁草書房・共著)など。

投稿者 Forum21 : 2006年08月15日 18:51

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