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2006年08月01日

特集/秋谷栄之助会長続投が意味するもの

池田賛歌と踏み絵を強いる池田大作のジレンマ

ジャーナリスト 溝口 敦

 一石何鳥もの効果狙う池田賛歌と踏み絵

 今年7月、創価学会の第5代会長・秋谷栄之助(75)の会長続投が決まった。秋谷は1981年、第4代会長・北条浩の急逝を受けて会長に就任し、以来、5期25年間会長職にあったが、健康が許すかぎり、今後5年間なおも会長職に留まるわけだ。
 創価学会の会長は今や池田家の執事、創価学会の番頭程度の重みしかないが、秋谷の続投が決まるまでは副会長の谷川佳樹か、同じく副会長の正木正明か、どちらかが秋谷の後任になると目されていた。
 だが、来年07年には春に統一地方選、夏に参院選が予定され、創価学会=公明党票の取りこぼしが許される状況ではない。先の衆院補選千葉7区では、自・公で推した元官僚(前埼玉県副知事)候補が落選した。国政における公明党の存在感も小泉純一郎首相の任期切れが近づくにつれ希薄の度を加えている。創価学会・公明党としてはなんとしても選挙での「常勝」イメージを復活、継続しないことには名誉会長・池田大作の外護さえ危うくなる。
 結局、地方組織に太いパイプを持ち、選挙のための体制づくりや実戦の指揮に秀でた秋谷に会長を続投させ、遺漏なきを期すことになったとみられる。
 他方、池田には、誰に創価学会を実質支配する地位と権限を与えるか、後継者問題が浮上している。衆目の一致するところ、池田の長男、池田博正がポスト池田を担うことになるが、次代の順調な船出のためにも組織の低落は避けなければならない。つまり池田は秋谷の会長続投で学会組織と活動力の持続を計る一方、秋谷に池田博正に替わるパワーを与えてはならないというジレンマを抱える。そのためにはどうすべきか。
 池田が秋谷に対して採れる方策は秋谷自身に池田賛歌を歌わせ、彼に引き返し不能の踏み絵を踏ませて、孤立させることである。
 まず今年3月9日、学会の本部幹部会で、秋谷は次のように池田を天上の高みに持ち上げている。
 「戸田先生(城聖二代会長)は『第三代会長を守れば、広宣流布は必ずできる』――こう厳命をされました。創価学会の根本は師弟であります。私は、第三代の池田先生を、生涯、お守りし抜いてまいります。それ以外に私の使命はございません。先生の偉大さは、そばにいた私が、一番よく存じ上げております。
 私などは、先生と比べれば天地雲泥、桁違いです。池田先生の存在は、牧口先生、戸田先生にも増して大きいのです。一番偉大な存在であられるのです。
 先生がおられるお陰で、会長を務めさせていただいています。全部、先生に守っていただいています。このご高恩は、一生涯、永遠に忘れることはできません」(『聖教新聞』06年3月11日付)
 これを秋谷による池田賛歌の例とするなら、秋谷に踏ませる踏み絵としては元公明党委員長・竹入義勝や、元学会幹部など批判者に対する口汚い痛罵が挙げられよう。
 『聖教新聞』は5月12日付の「寸鉄」欄で「公明党よ、金と野心に狂った忘恩の竹入らを攻め砕け」と竹入攻撃をさらに指示、これを受けて公明党は実に20年前、竹入にあったとされる不正につき、訴訟を起こすほどの執拗さをみせている。
 『公明新聞』5月20日付は次のように報じた。
 「公明党(神崎武法代表)は19日、竹入義勝元委員長が、公明党の資金500万円を着服横領していたことが今般の党内調査で判明したとして、竹入元委員長に対し、損害賠償500万円(弁護士費用を含む)の支払いを求める民事訴訟を東京地方裁判所に起こした。
 訴状によると、竹入元委員長は、委員長在職中に、党委員長の地位にあることを悪用して、東京・中央区日本橋の三越百貨店から自分の妻のために、宝石の指輪を代金500万円で購入し、1986年7月10日、党本部内で党会計から現金500万円を出金させて指輪代金の支払いに充て、党資金500万円を着服横領した。
 訴状では、竹入元委員長のこの行為は『刑法上の横領罪に該当する行為であって、民法709条の不法行為責任を負うことは明らか』と指摘し、不法行為による損害賠償として550万円を求めている」
 創価学会は竹入への追撃として幹部による座談会などを組み、その中で秋谷に次のような発言をさせている。
 「秋谷 まったく、あいつは悪党だ。またもや『学歴詐称男』の悪事が発覚か」(『聖教新聞』5月29日付)
 学会批判者に対する痛罵は秋谷が『創価新報』で連載している「創価の正義と真実を語る」で常態化している。ちなみに連載の5回目(7月19日付)では「ウソつき夫婦(元学会全国副婦人部長・信平信子夫妻、池田にレイプされたと手記を発表した)」「白川某(白川勝彦・元自民党衆院議員、創価学会批判に熱心だった)」「極悪ペテン師の山崎正友」「日顕直属の謀略集団」「売文屋の内藤国夫」などに言及、斬って捨てている。
 秋谷に竹入義勝や矢野絢也などを批判、痛罵させれば、秋谷は将来、少なくとも竹入や矢野と仲直りし、手を組むことはできなくなる。池田とすれば、秋谷が池田博正という後継者の障害になる芽を事前に摘むことができる。つまりAがBを叩くことはAとBの関係を割き、AとBをそれぞれ孤立させる。Bが亡んだ後、Aの役割もなくなる。
 池田が秋谷に会長を続けさせ、同時に池田に反旗を翻した者たちを叩かせるのは、一石何鳥もの効果を池田にもたらす。中国の古典に言う「狡兎死して走狗煮られ、飛鳥尽きて良弓おさめられ、敵国破れて謀臣亡ぶ」を地で行っているわけだ。

 面従腹背の秋谷、池田死後の宮中クーデターも

 もちろん秋谷は心底池田に心服して、賛歌を歌い上げるわけではないし、反学会の者たちを叩くわけではない。怜悧な秋谷のことである。池田の思惑は十分承知の上で、自らの役割を果たしているにちがいない。
 秋谷は池田により自尊心を徹底的に叩きつぶされている。かつての同僚や仲間を叩くことで、将来彼らと連帯する途も閉ざされている。しかし秋谷は身近に池田を見、かつ創価学会で実務を仕切って経営の表裏を知る者である。簡単には池田に隷従せず、面従腹背がその本質である。
 池田の死後、秋谷が宮中クーデターを起こす可能性は十分にある。なぜなら池田の偉大性はカネも人手も時間も掛けた人工的なものだが、秋谷の会長という地位は秋谷個人の実力によるものだからだ。このことは秋谷も自覚している。逆にいえば、秋谷は池田死後を見据えているから、今の隷従に耐えられるともいえる。
 池田死後、創価学会の組織運営に個人崇拝は必須かといえば、そうではない。今でさえ池田に対する個人崇拝は組織運営上、欠かせない要素というより、多分に池田の劣等感や嗜好に関係する何かである。秋谷がカリスマ性を持たずとも、創価学会の運営は大過なく継続できる。
 池田にとっては同格、ないしやや後進の者はつねに池田の死後を脅かすゾンビである。殺しても殺しても生き返り、池田の足下と墓を脅かす。世襲制を掻き乱しかねない危険性を持つ。今年3月、池田の長男、池田博正が副会長から最高幹部の副理事長に昇格した。すでに国内、国外に向けて彼の「お披露目」が進行している。
 今年1月以降、『聖教新聞』は創刊55周年パーティを東京、大阪、名古屋、札幌、仙台などで開催してきたが、池田博正は創価学会を代表する立場で出席し、パーティに参加した政財界人と懇談して顔を売り、人脈を広めつつある。
 3月には創価学会代表団の代表として台湾を訪問し、中国文化大学で名誉博士号を受けた。彼は台湾から直接中国入りし、池田の名代として北京で唐家セン国務委員と会見した。隷従による強い中国パイプは池田が子々孫々伝えるべきお家の芸である。池田博正が中国パイプも継承することはまちがいない。
 だが、池田家による創価学会の世襲がスムーズに行われるかどうかはまだ定かでない。長らく池田自身が世襲を否定してきたし、幹部間には依然、創価学会の池田私物化と世襲を疑問視する声が存在する。
 まして池田の死後、池田博正を補佐する有力者は秋谷である。池田博正は自らの側近も、腹心の部下も、育ててはいない。池田博正自身が熱烈に池田という権力の継承を望んでいるかも疑問である。博正は若いころから覇気に乏しい人柄と伝えられていた。
 ところで今年6月現在、池田が世界の大学から得た名誉学術称号は194になったという。内訳は名誉博士100、名誉教授91、名誉学長3のようだが、これらが創価学会資産を池田個人に大量傾注した「成果」であることは疑いようがない。従来、創価学会の運営は池田を人為的に偉大化することで池田を会員統合の旗印とする、つまり会員の池田個人崇拝を増進させることで学会の統合力、求心力としてきた。
 こうした個人崇拝のネックは世襲できない点にある。池田の偉大化に投じられた巨額の資本は池田が生を終える時点でゼロになる。その意味で効果の世代間継承を期待できない、割に合わない投資である。
 池田の死でひとまず個人崇拝の対象は雲散霧消する。そのとき、秋谷がどう行動するか、池田博正との関係をどう築くのか、あるいはどう壊すのか。実務官僚・秋谷は池田同様、高齢ではあるものの、オールマイティの手札を持ったとき、長期間、忍従を強いられた池田大作の墓を暴き、名誉失墜させることさえ可能になる。  (文中・敬称略)

溝口 敦(みぞぐち・あつし)1942年生まれ。早稲田大学政経学部卒。出版社勤務を経てフリージャーナリスト。宗教関係をはじめ幅広く社会問題を扱う。著書に『堕ちた庶民の神』『池田大作創価王国の野望』『オウム事件をどう読むか』『宗教の火遊び』『チャイナマフィア』『あぶない食品群』『食肉の帝王』など多数。乙骨正生(おっこつ・まさお)フリージャーナリスト。

投稿者 Forum21 : 2006年08月01日 18:48

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