「宗教団体」の名が泣く脱会者いびりの惨状 / 山田直樹(雑誌記者)

 ちょうど宗教法人法が改正されようとしていた頃の話である。東京都内や広島県内で、大量のビラが配布された事件があった。多くは郵便受けに投げ込まれて おり、10万や20万などの数ではない配布量と予測できた。内容は、法案の改正を熱心に推進した亀井静香議員のスキャンダルを報じるもので、もっともらし い組織名は記されていたものの、所在地や電話連絡先さえ印刷されていない「怪文書」の類である。  だが、四色刷りのカラー印刷でそれだけの大量配布が都道府県にまたがって実行されたのだから、大きな組織力を持つ集団が背後に存在することも容易に予想 できた。配布先の広島県は亀井議員の選挙区でもある。私の所属する雑誌編集部は、唯一、掲載されているファックス番号から発信元の調査を試みた。辿り着い たのは、池袋にある公明党元都議の事務所だった――。

 部屋の中では、学会の"教本"に熱心に目を通す女性事務員がぽつねんと座っており、こちらの質問にまとも に答えない。亀井氏がその気になれば、刑事告訴すら可能な文書攻撃である。がしかし、こうしてまさに政教一致で攻撃をしかける発信元まで特定できたケース は、極めて稀なことだ。

 一方、公明党は、「創価学会による被害者の会」や「信教の自由を守る会」が、配布したビラ(当然、連絡先は明示されている)に関して、配布した人間など に刑事民事告訴を全国的に連発している。また配布を巡る、学会員からの暴行事件も会には数多くの報告が上がっている。  

嫌がらせ重ねて脳内出血に追い込む

 まず、東京都江戸川区で、学会を脱会した北川さん(仮名)のケースから、その実態を見ていこう。  北川さんが脱会したのは九二年。その二年前に夫を亡くし、娘二人との女性ばかりの世帯となった。夫が亡くなると同時に、近所の創価学会ブロック長(高校 教諭)が週に、三、四度訪問するようになる。未婚だった娘たちの肩を揉んだりして、「かわいそう」と言っては、明け方まで居座りを続けた。  脱会を決意すると、今度は複数の地区幹部が押しかけて勝手に座敷に上がり込み、嫌がらせを始めたのだ。北川さんが「気が狂った」と近所に噂をバラマキ、 ガス栓をいたずらするなど約一年半にわたって、その行動は継続した。  北川さんは、自らそのような集団に属していたことを改めて思い知らされる。彼らの実態を公けにしようと、「創価学会による被害者の会」のビラの配布を開 始した。途端に学会員による激しい嫌がらせが行われていく。  北川さんが、大それたことをやったのだろうか。否だ。「被害者の会」のビラを近所のポストに投函しただけである。折しも、東京都議選(九七年七月)が 迫っていた時期であった。そのような時にこそ、創価学会の選挙違反を監視・告発しようという主旨のビラを配布することは、理に適った当然の行為だ。

 それに対して学会員らは、以下のような執拗な嫌がらせを実行した。

●集団での二十四時間体制での監視。
●複数の都道府県ナンバーの車による尾行。
●敷地内への侵入。
●北川さんの知人への暴行。所持品の奪取。

 もちろん、いぎたない言葉での罵り、中傷はいうに及ばずだ。嫌がらせを受けるたびに北川さんは、所轄の警察署へ連絡したが、一向に動く気配はなかったと いう。  現在ならさしずめ、ストーカー防止条例にまさしく抵触するケース。果たしてその条例が学会のこうした行動に規制の網をかけることはできたのだろうか。次 に挙げるのは、たび重なる嫌がらせの結果、ついに倒れて体に障害まで負ってしまったケース。  昨年八月、学会をやめた鈴木さん(仮名・独居)宅へ、そのことを知った学会員が二〜三人でやってくるようになった。執拗に、学会へ戻ることや、やめるに あたって相談した人物の連絡先を教えることを強要する。玄関の引き戸を無理やり開けて侵入を試みたり、車で鈴木さんの帰宅を待ち伏せる。

 裏の家は学会員宅。そこから四六時中行動を見張るようにもなった。何年も鈴木さんと音信不通だった、かつて鈴木さんを学会に入れた人物から突然、電話が はいる。  「相談した人物の連絡先を教えろ。さもないと(鈴木さんが)どうなるか分からない」旨の脅迫電話だった。三か月後、ストレスの溜まった鈴木さんは、脳内 出血を起こして、救急車で入院。手に軽度のマヒが残り、勤めていた職場も長期休暇とし、自宅療養に入る。  今年三月五日、二度目の脳内出血を起こし、再度、緊急入院。今回は、言語障害と体のマヒが前より強く残る結果となってしまった。この入院直前の三月三日 にも、学会員が一日に二回も鈴木さん宅を訪れ、面談強要を行っていた。特に二度目は、路上で車を駐車して機をうかがっていた学会員らが、無理やり鈴木さん 宅に入り込もうとして、押し問答となった。翌日、鈴木さんは妹に、血圧が高くなっていることを漏らしている。

 紛れもないストーカー行為によって、鈴木さんは追い詰められたのだ。こうした行動が果たして「宗教的行為」なのか。  「地獄に堕ちる」が嫌がらせの共通言語  私の所属する「週刊文春」編集部の行った脱会者アンケート調査でも、学会関係者から七割の回答率で「何らかの嫌がらせを受けたという結果がでた。この 「嫌がらせ」の内容に関して、最も多くの人々が答えたのが「面談強要」である。北川さんや鈴木さんのケースは決して珍しいものではないのだ。

 いくつかの実例を挙げる。

●脱会後、地区の婦人部長ら幹部三人が一方的に問責。(調査時まで)面談強要は八五回でのべ人数は二五〇人。

●休日でも朝から、四、五人の集団で繰り返し来訪。(池田)先生を裏切ると、地獄に堕ちるとわめき散らす。過去に大病を患ったことがあるが、それを持ち出して「一年以内にバチが当たる」と言う。  この「地獄に堕ちる(ろ)」とか、「バチが当たる」というフレーズは、嫌がらせに必ず登場する「学会員共通言語」だ。

●脱会して幸せがあると思うな。これから先のお前の生きざまが見物だ。今なら間に合う、助かりたかったら学会に詫びを入れて帰って来い、など声を荒らげ る。ツバを吐いたり、あざ笑う。ところが選挙になると猫なで声で、あなた方が頼りですと頼みにくる。終われば、また嫌がらせが始まる。

●主人の死亡後、創価大学卒業生が面談に来て、居座り、しつこいので警察を呼んだ。が、警官に対しても脅迫的な態度にでて、「俺たちには市会議員も国会議員もついているからな」と。 ・同時に脱会した父が亡くなった後、その父を知らない人(学会員)までが、「お父さんは地獄で苦しんでいる」などと、およそ人間の温情のかけらもない言葉で罵られた。  こうしたケースはほんの一例に過ぎない。続いて、嫌がらせで多かったのは無言電話。が、この発進元を辿るのは難しく、誰の仕業かの特定も困難だ。それにもかかわらず、これには一定の「法則」があるのだ。

●脱会後一か月してから自宅に無言電話。二週間後、今度は事務所にかかってきた。放っておくと、一日三〇〇本もかかってきた。  この男性の場合と同じように、無言電話は脱会した後から急に多くなったというのが、アンケートの結果である。面談強要同様、こちらの方も、選挙間際になると急減するという。  続いて数が多かった嫌がらせは「中傷ビラ」である。中には、こんな被害を被った方もおられる。

●平成六年七月、「町内の皆さん、この男女にご注意下さい」「夜な夜な市内に出没し脅迫・イヤガラセをする変態夫婦!」などど書かれた中傷ビラを、私の住む団地のほぼ全戸にバラ撒かれた。顔写真、自宅住所や電話番号、勤務先とその電話番号まで記されていた。  回答者のこの男性は、刑事告訴を行った。一方、こうした怪文書のほかに、学会機関紙の投げ込みも多い。断っても断っても、放り込むのであれば、立派な嫌がらせには相違あるまい。

 脅迫にも、すさまじいケースがあった。

●学会に帰れ、地獄に堕ちるぞと書いた手紙の封筒は、黒の縁取り。夜十時頃、学会青年部がやってきて、シャッターを蹴飛ばして帰る。

●小学生の子供が電話に出ると、「お母さんはただじゃおかないから、覚悟しとくよう言っといて」。

●ガンで死ね、うろちょろするなクソババー、殺してやるなどと書かれた脅迫状が投げ込まれた。手紙の中には小学校の教員からのものもあった。

●頼みもしない寿司やピザが大量に届けられるという古典的手法。

●車への細工では、落書きや傷つけのほか、わざと半ドアにしてバッテリーを上げさせてしまう手口。

●ブレーキホースの切断に関しては複数回答が寄せられた。

 商店を営む方たちが脱会すると、待ち受けているのが不買運動だ。口コミで、「店が転居する。立ち退きになる」などとデマを流す。  回答を寄せてくれたある理容店主のケースでは、営業中に一度に五人の学会員が来店。ひとりは客になったものの、残り四人が待合席に居座り、営業妨害され た。いずれにしても 「裏切り者の店」のレッテルが貼られ、「学会の人から店を潰すのに協力してほしいと、頼まれた」と、一般の方から打ち明けられた自営 業者もいる。

 反面、以下のような「嫌がらせ」を受けた大学教授もおられる。この先生は、宗教法人法改正の折り、かなりの頻度で発言なさった。決して、創価学会をター ゲーットに批判言辞を振りかざしたのではない。ところが、テレビ出演の直後から、研究室の電話はなり続け分厚い封筒が、連日配達される。

 つまり、こういうことなのだ。  「先生は、創価学会を誤解されておられる。池田名誉会長はこれほどご立派で、世界中から慕われている。是非、これをお読みになって……」
  送付された大方の資料には、そのように書かれていた。
 電話の方は、  「池田先生の素晴らしさを、会ってご説明したい」と、いうものばかり。創価大学のポストをちらつかせて懐柔するケースは、こういった研究者間でしばしば 見られるパターンでもある。が、この先生の場合、それで実際の業務に支障をきたしてしまったのだから、学会員の動機がどうであれ、ソフトな業務妨害に相当 しよう。

 本誌創刊号にも記したが、こうしたアンケート調査は、大新聞がやるべきである。私たちが収集したわずか三二〇〇余の結果からして、このような「惨状」を呈しているのだから。
 いかに外面が良く、池田氏がどれほどの勲章、博士号を獲得しようと、学会組織の底流には、嫌がらせという「負」の属性が密着している。ところがそうした 陰湿な行為に走る会員は、「自分たちの方が苛められている」と、考えているのだ。脱会者が「悪」と結びつき、創価学会の悪宣伝をしていると、実直に彼らは 思っている。故に、これまで書き記した行為に関して、彼らは一抹の羞恥心さえなくやり遂げるのである。
 そのような指向性を持った集団が、政権与党の一角を占めている。

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