« 2008-6 特集/矢野絢也元公明党委員長が造反 | メイン | 2007-7 信濃町探偵団―創価学会最新動向 »

2008年07月08日

2008-7 特集/混沌とする自公政権の半年

メディアの退廃/首相問責は証文の出し遅れと野党を批判
矢野氏の訴訟を黙殺、公明を持ち上げるサンデー毎日

川崎泰資
元・NHK記者


 首相の問責決議案を参院で可決した歴史的な事態に際してメディアの批判は、首相や自民党の与党より、証文の出し遅れ、問責の形骸化と、民主党と野党に向かった。
 08年6月11日、参議院本会議は福田首相の問責決議案を野党の賛成多数で可決した。今の憲法のもとでは首相の問責の可決は初めてのことであり、福田首相は憲政史上に汚点を残すことになった。特に汚名の責を負わなければならないのは、法的拘束力がないことを理由に、解散総選挙も内閣総辞職も拒否して居直ったことにある。
 自民党はこの首相を支えるため翌日の12日に衆院本会議で内閣信任決議案を可決し、参院での問責を帳消しにする手段に出た。しかし国会の一院、参院で首相不適格の烙印を押された事実は重く、問責可決後のどの世論調査をみても福田首相の問責決議が可決されたことを評価するものが、評価しないものを上回っている。つまり世論は首相の居直りを認めていないわけで、福田首相は「半分総理」という揶揄に曝されている。
 参院選で自民・公明が過半数割れしたことが直接のきっかけで今日の状況は生まれた。野党は「民意はわれにあり」と結束し、衆院で与党が従来どおり通した法案を今度は野党が次々に否決する状況が生まれ、メディアがこれを衆参の「ねじれ現象」として囃し立てた。しかし問題は参院で否決された法案を自公両党が衆院で3分の2の多数を占める当然の権利のように再議決を繰り返し、参院選挙後の民意を全く無視したことにある。
 問責決議で野党側が指摘したのは、インド洋への補給支援特別措置法、ガソリン暫定税率の復活、道路整備特別財源の特例法と3度にわたる多数の暴挙である。この間、民主党は一貫して首相問責の提出を模索し続けたが不発に終わり、最後に野党が参院で可決した後期高齢者医療制度の廃止法案を自民党が拒否したことで遂に問責の提出になった。

 直近の民意と3分の2の多数

 与党側は衆院の3分の2の再議決は憲法に規定された正当なものと主張しているが、参院で否決されたからといって本来、数を恃んで再議決を乱発してよいということはない。権力を行使するには謙虚さが必要であり、都合が悪ければ何が何でも数で押し切るのは民主主義とはいえない。これでは直近の全国選挙で民意を得た参院を無視して衆院だけがあればよいということで「一院制」と同じ結果になってしまう。
 小泉首相が郵政民営化法案を参院で否決されたとき、一方的に国会を解散した強権的体質が郵政選挙で得た多数の議席で増幅され、その後の自公政権の政治手法になった。憲法が衆院の優越性を認めているのは確かだが、それにも自ずとルールがあり無理押しをすれば民意が報復をする。それが山口の衆院補欠選挙であり、沖縄の県議会議員選挙であったことは否定しえない。民意は自民、公明の与党の政治姿勢にノーを突きつけているのだ。
 憲法が認めている衆院の優越性は衆院が民意をより代表しやすいように、衆院にいつでも解散総選挙をすることができる仕組みを与えていることにある。しかしメディアが与党の主張と極めて近く、憲法の規定を振り回し参院を法的拘束力がないと切り捨てるだけで、言論の要の新聞でさえジャーナリズム性や批判力を欠いた結果、衆院での再議決の乱発を誘発させた。

 小泉元首相が「壊した」のは日本社会

 福田首相は問責決議の可決後、「指摘されたことは一つ一つ重く受けとめる」と述べたが、総辞職も解散総選挙も一切拒否では言葉が虚しい。小泉元首相にいたっては、「問責はたいした意味はない。いじめみたいなもの」とうそぶく始末で、自民党の歪んだ体質丸出しであり、それを是認する公明党も政権にしがみつくだけの存在に堕している。
 福田首相はかつて小沢民主党代表との党首討論で、「私はかわいそうなくらい苦労している」「最大の犠牲者は私」と泣きごとをいい顰蹙を買ったが、最大の犠牲者が国民なのは自明なことだ。
 福田首相は「自民党をぶっ壊す」と主張して総理大臣に就任した小泉首相が、改革、規制緩和と市場主義経済を声高に叫んだ政策が既に破綻していることを率直に認めるべきだ。市場のメカニズムに任せれば公平で理想的な社会が実現すると、郵政の民営化を強引に進め国民を魔法にかけ、メディアと結託して前回の総選挙で大勝し、これに加担した公明党の完全与党化で衆院の3分の2の多数を得た。この、数にものを言わせてすでに民意を失った政策を強行するのは無理がある。
 小泉政権以降、大企業や金持ちの勝ち組は我が世の春を謳歌したが、貧富の格差は拡大し正規の労働者でなく低賃金と不安定な雇用条件に泣く派遣労働者が増え続けた。75歳以上の高齢者だけを一括りにした「後期高齢者医療制度」を導入し、平成の「姥捨て」と酷評され、年間3万人以上、1日100人もの自殺者が10年も続く社会になった。
 小泉元首相の「ぶっ壊し」たのは自民党だけでなく、日本社会そのものであったのだ。

 無節操な公明党

 首相の問責を可決され、創価学会からも厳しい批判をうける公明党は、創価学会・公明党が掲げた平和の党、福祉の党の看板をかなぐり捨て、どこまでも政権についていく無節操な集団と化したようだ。それはサンデー毎日が6月29日号に掲載した「公明党代表 太田明宏 すべてに答える」と題する4ページのインタビュー記事を見れば明らかだ。
 小見出しを見ても、「我々が福田内閣のアクセル役だ」「消費税アップは慎重に」「解散時期は話し合っていない」と身勝手な言い分の羅列である。太田代表によれば、安倍内閣では憲法改正や集団自衛権で公明はブレーキ役を果たしたが、福田内閣では消費者庁構想は結党以来「平和と福祉」を党是に掲げる路線と一致したという。しかし世論が問題にしている「平和も福祉も」投げ捨てて自民党と一体化していることへの言及はない。福田内閣のアクセル役というなら、姥捨て医療制度も、公費無駄遣いの典型、居酒屋タクシーも公明主導ということになりかねない。

 メディアの退廃、政教分離の論議は黙殺

 この記事が珍妙なことは、いま最もホットな元公明党委員長矢野絢也氏が、創価学会に言論活動の停止や寄付の強要、嫌がらせの尾行、監視をうけたとして5500万円の損害賠償請求訴訟を起こしている件については何も触れていないことだ。
 この件では6月13日、衆院第一議員会館で民主党の菅代表代行ら野党議員の呼びかけで「矢野さんから話を聞く会」が開かれ、矢野氏は学会、公明の政教一致に関連し、「選挙期間中、常時非課税の資金でつくられている宗教施設が公明党の選挙活動の拠点や集会所になり、電話も使われる」など、自らが体験した事実を明らかにした。また矢野氏は、「これが政教一致になるのかどうか議論すべき問題であり、国会から要請があれば参考人でも証人でも喜んで出席させていただく」と述べた。
 矢野氏の訴訟については大新聞は全く報道しないし、国会の「矢野氏に聞く会」も伝えていない。矢野氏が国会で証言するとなると戦後政治の大きな節目になることも予想されるのに、学会の「金縛り」にあって何も報道しないメディアの退廃は極まっている。


川崎泰資(かわさき・やすし)元NHK記者。1934年生まれ。東京大学文学部社会学科卒。NHK政治部、ボン支局長、放送文化研究所主任研究員、甲府放送局長、会長室審議委員、大谷女子短大教授、椙山女学園大学客員教授を歴任。著書に『NHKと政治―蝕まれた公共放送』(朝日文庫)『組織ジャーナリズムの敗北―続・NHKと朝日新聞』(岩波書店)など。

投稿者 Forum21 : 2008年07月08日 20:14

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.forum21.jp/f21/mt-tb.cgi/158

inserted by FC2 system