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2005-10-1

特集/自・公融合で創価翼賛体制が確立した衆院総選挙

憲法改正へ独裁政治の道か
小泉を支える「自公」体制の深化

川崎泰資 椙山女学園大学客員教授


 ヒトラーに類似の独裁政権誕生

 「ヒトラーは敵の服従ではなく、絶滅を企図した稀な権力者であり、しかも敗北を自覚した後もドイツの徹底的な壊滅と、最後には自らの死体の完全な抹消という破滅への意志をもち続けた狂気の世界の住人だった」
 これはヨアヒム・フェスト著の『ヒトラー最後の12日間』の一節である。破滅が明らかになった後、ヒトラーは「自分を総統に選んだのは国民ではないか」と嘯いた。
 このヒトラーを小泉に、ドイツを自民党に置き換えてみるとよい。解散直後、改革を進めるため「殺されてもいい」と語る小泉首相は顔面蒼白、目を引き吊らせ頑固一徹さを示していた。造反派の亀井や綿貫等は小泉の性格や決意を読み損ない、準備も覚悟もなく権力に挑んだ。結果は惨澹たるものになった。
 9月11日、総選挙の開票速報が始まると、各テレビ局は一斉に自民党の歴史的な圧勝を報じはじめた。1ヵ月前、参議院で郵政民営化法案が否決され、小泉首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切ったとき、この結果を予想した人はいなかった。
 衆議院で可決された法案が参議院で否決されたからといって国会を解散するのは筋違いだ、参議院の存在を無視する議会制民主主義の暴挙だという声が圧倒的であった。
 だが小泉首相は批判を一切黙殺し、間髪を入れず郵政民営化の是非で国民の信を問うとして、造反議員を公認せず対立候補を立てることを軸に矢継ぎ早にドラマチックな手を連打した。女性の刺客を起用する「くの一忍法」はテレビで話題をさらった。ワンフレーズ政治の延長に劇場型のテレビ選挙戦を演出し、自ら主役として主導権を握った。
 長年、自民党政治に貢献してきた派閥の領袖にも人気の女性議員にも容赦なく、見栄えのよい強力な落下傘候補を送った。連日繰り出される新たな刺客の最後を飾ったのは、プロ野球参入や放送局の買収で名を売ったライブドアの社長、堀江貴文。通称ホリエモンを造反派の中心、亀井静香にぶつけたところでクライマックスに達した。
 結果は自民党が296議席で全議席の61・7%をしめ、連立を組む公明党の31議席と合わせると327議席にも達し、衆院の議席の3分の2を7議席も上回る雪崩現象となった。だが小選挙区での得票数では自民は民主の1・3倍に過ぎない。それが議席数では4倍をこす極端な開きがついたのは小選挙区制度に特有な現象で、イギリスやカナダではもっと極端な例も起こっている。日本は小選挙区と比例代表の並立制度であるためこの程度で終わったが、3割の得票で8割の議席を占める小選挙区制度の恐さを実証した。

 ハーメルンの笛吹き男

 テレビのニュースは、さながらワイドショーと化し、連日、刺客マドンナやホリエモンを追い、公示後は小泉首相のマドンナ候補への応援演説を取り上げた。新聞もこれに煽られるように、郵政民営化に賛成か反対かが焦点と書き立て、小泉首相が目論んだ単一の争点に加担し自ら争点を明示する議題設定機能を放棄した。この応援団になったのが奥田経団連会長らの経済界の主流であり、それを単純に受け入れた大メディアの報道であった。
 公示後、日経新聞が一面トップで「民営化で国の収入31兆円」と、民営化すれば世の中がばら色になるような提灯記事を書いている。他の新聞も郵政を民営化すれば行き詰まっている外交戦略もうまく行くようなマニュフェストの、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の説明を容認する。小泉首相や刺客の「郵政民営化が改革の本丸」との絶叫に加担し、時々社説で争点は外交、福祉と他にもあるとアリバイ作りだ。
 ドイツの中世の伝説に、1284年、ハーメルンの町で奇妙な音色の笛を吹く男につられて、鼠が町からいなくなったという話がある。小泉の「郵政民営化」の呪文は、刺客のマドンナが増幅し笛吹き男の音色と同様に国民の間に浸透し民営化反対派を駆逐していった。
 選挙戦ではこれに、独裁国にみられるマスゲームさながらに、創価学会婦人部の応援団が、各地の小泉首相の遊説に駆り出されて気勢を上げ演説会場を盛り上げた。
 演説を聞きにいけば、普通の人気でなく異常な宗教的な雰囲気に誰でも気が付くのに、テレビの映像はこれを黙殺し小泉人気と囃し立てた。こうした選挙報道の繰り返しの挙げ句、世論調査として自民優勢の報道を続けたのは、世論調査ではなく世論操作に他ならない。

 独裁政治を支える自・公の癒着

 しかし自民党圧勝の本当の決め手は、創価学会・公明党との徹底的な癒着にあったとみるのが正当である。単純にみて、創価学会の票は1選挙区当たり、平均2万から3万あるが、自・公協力の名の下に、公明党が候補者を立てた9選挙区を除いて殆どのところで学会票が自民党候補に流れた結果の議席数である。
 公明党はその見返りに、比例区で公明党と書くよう自民候補者に強要し、今回の選挙では、何と自民党の武部幹事長等三役が揃って、小選挙区では自分に、比例区では公明党に入れてくださいと連呼したのだから呆れる。首相の盟友山崎元副総裁も補欠選挙以来、「異体同心」と学会に頭を下げ、比例は公明と連呼した。そこには政権政党の矜持はない。
 自・公の選挙協力のシンボルとされた東京12区では、将来の公明の党首候補の太田昭宏を勝たせるため、自民党の造反派八代英太の立候補を辞めさせようと、手練出管を使い立候補断念を自民党に働き掛ける選挙妨害までしている。自民党は八代に比例での公認を仄めかしたり、縁者を公認する等の餌をちらつかせる節操の無さだ。
 小泉は造反派には非情を貫き通したのに、公明に小選挙区を譲るところでは自民党の比例候補の定年を度外視し、公明党が自民党の造反派を支援しても黙認するなど公明との選挙協力に血道をあげ、公明の言いなりになった。それでも公明は3議席減らし敗北した。
 公明党・創価学会は選挙を「法戦」と呼び、池田名誉会長、秋谷会長が、比例区の得票数が「広宣流布」の証とする指導を行なっている。これは政教一致そのものであり、創価学会が政治団体である証左である。創価学会・公明党の「民衆のための政治」という場合の民衆が学会の支持者という意味であり、小泉首相の「官から民へ」という時の民が大企業の民であることと、ご都合主義という点で発想が類似している。
 創価学会は内部の引き締めのため公明党の発足以来、多大の貢献をした竹入、矢野の二人の元委員長を裏切り者に仕立てて誹謗中傷の限りを尽くしている。今回の自民党の造反者の切り捨てと悪罵の投げ付けは言論の自由のない池田学会と瓜二つに見えてくる。

 貧富の差を拡大する米型政策

 郵政民営化もアメリカの通商代表部の日本政府に対する指令文書、米国政府の年次改革要望書に明記されている政策であることを知っている人は意外と少ないし報道も少ない。
 小泉政権の実績が問われなければならない総選挙で、4年間に240兆円の財政赤字を拡大させたこの政権に対する評価はどうなったのか。改革政権と「改革」を連呼しながら1000兆円の超赤字国家にした責任はどうなるのか。GDP国内総生産、516兆円の二倍も赤字を作ったのは、毎年30兆円以上の国債を発行しないとした公約をあっさりと破り、「大したことはない」と言い切った小泉首相にあるのは明らかだ。
 構造改革をすすめても歳出が減らないカラクリは、独立行政法人にして見せかけ上は公務員を減らしても実質は変わらずと言うより、人件費を余計にかけたりしているのだ。
 さらに選挙中はサラリーマン増税には一切触れず、選挙が終わるとすぐ増税について語りだす閣僚など、自民党はその場しのぎの調子のよさだ。日本の税制は課税最低限が325万円と、先進国では貧乏人に最も厳しい国なのに、金持ちには優遇制度を取っている。
 資産課税や儲けすぎの企業への法人税の増税をすべきなのに、こちらには目を瞑っているのだから、経団連や大企業やホリエモンが小泉政権を支持するのは当然だ。

 権力の暴走・大衆の暴走

 選挙結果は小泉自民党の大勝で、刺客を含めて最大派閥の森派に匹敵する83人の小泉チルドレンが誕生した。自・公で過半数獲得の目標を大きく上回り、衆院では憲法改正を発議できる3分の2を越えた。自民党のなかに小泉を批判する人は皆無になったという。
 公明党の神崎代表は、小泉首相が来年9月の総裁の任期切れ後も任期を延長して次の参院選挙の指揮を執るべきだと他党の人事に介入している。これでは「自公」連立政権ではなく「自公」党と言うほかはない。今や自民党の支配者は学会・公明党である。
 今度の選挙の結果、自民党への創価学会の影響が一層高まることは目に見えている。しかし国民の大多数は、学会と自民党の癒着ぶりの実態を殆ど知らない。それはマスメディアが学会の広告や新聞の委託印刷による学会マネーに頭が上がらなくなり、学会・公明党が嫌がる真実の報道を避けているからである。メディアの不報の罪は重い。
 有権者も勝者の自民党も仰天する選挙結果がでたのも無理からぬところだ。(文中・一部敬称略)

川崎泰資(かわさき・やすし)椙山女学園大学客員教授。1934年生まれ。東大文学部社会学科卒。NHK政治部、ボン支局長、放送文化研究所主任研究員、甲府放送局長、会長室審議委員、大谷女子短大教授を歴任。著書に『NHKと政治』など。

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