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2005-1-1

特集/もういいかげんにしろよ!『新・人間革命』

池田大作は人間革命ができていない

野田峯雄(ジャーナリスト)


 神崎・冬柴と続くイラク派兵後押しの貧相芝居

 「自衛隊の宿営しているサマワはイラクの最辺境地です」
 と、アジア経済研究所の酒井啓子さん(参事)は指摘する。だが、その最辺境の宿営地すらこれまでに8回の砲撃対象となり、しかも酒井さんによると、米軍の“05年1月30日にイラク国民議会選挙を行なうための掃討作戦”で追われた武装グループが南下すれば、最辺境のサマワも戦闘地になる可能性が強いという。
 すでに「イラクにおける民間人の死者数は約10万人」との現地調査結果が出ている。つまり“ブッシュ型正義”が、せせら笑うような顔つきでとてつもない虐殺劇(ジェノサイド)を繰り広げているのだが、他方、いわゆる極東の列島の東京で宗教団体まがいの所有する豪邸を完全占拠の形にして久しい、米大統領に比べるときわめて小ぶりにもかかわらず「宇宙並みなのね!」と連呼して飽きない、わが正義おっさんは何をしていることやら。まさか、ブッシュさんの熱風にすっかりのぼせあがりジェノサイド指揮の幻夢に耽ってはいないでしょうね。

 もう少し“サマワ”をフォローしてからこの人間のオツムへ回帰したい。
 「現地で確認したけれど治安は安定しているよ、なんも問題なし」
 12月5日に大野功統防衛庁長官が、また翌12月6日(いずれも現地時間)に武部勤自民党幹事長と冬柴鉄三公明党幹事長がサマワを訪問。彼らは可愛くセーノッと声をかけ合うようにして「問題なし」。で、これを受け小泉首相が11月9日に派兵を1年間延長する基本計画(イラク復興支援特別措置法)の変更を閣議決定したが、その一連の貧相かつ国民侮蔑芝居はちょうど1年前に神崎武法さんが演じた同・ヘラヘラ芝居を想起させる。あのとき彼は、小泉さんがなかなか派兵に踏みきれないのに業をにやし、「ならば私が」とサマワ視察をなんと3時間ほどで敢行し、「臆病になるんじゃない」などと、ぐずる小泉さんの背中を強く押したのだった。
 政治家はおしなべて貧相芝居を好む。だが、自民の大野さんと武部さんはさておき、神崎さんや冬柴さんはそもそも政治家だろうか。政治家ではない。政治家似なれど政治家にあらず。師弟不二の誓いをさせられている彼らはまず池田大作さんを拝し、上目づかいの感じで池田大作さんの、たとえば右手をうかがう。要するに神崎さんや冬柴さんのイラク殺戮関係行動は池田大作さんの純金タクトの一振り。そう考えるのが至当ではないか。で、肝心の自称「宇宙並みなのね!」は何に精を出しているのか。むろん人間革命である。

 ウソにウソを乗じた『新・人間革命』

 冬柴さんたちが舞台の袖でサマワ芝居の出番を待ち足踏みなんかをしていた12月2日、池田大作さんの偽名(法悟空)による小説『人間革命』の執筆開始40周年を迎えたという。
 それをおっ始めたのは沖縄であった。
 沖縄本部第一和室であった。
 「以来、40星霜――。」
 「この佳節を記念し、明春、『人間革命展』を沖縄研修道場の池田平和記念館に常設。さらに、『人間革命の碑』の建立を決定。師弟不二の精神を、永遠の魂としてとどめゆく」
 と、40周年で世界が引っくりかえりアワを吹いているような格好の聖教新聞。どうでもいいことじゃんと言ってはいけない。この偽名本は「世界で発行部数4000万部を超える大ベストセラー(全12巻)」とか。
 ところで、彼はなぜ沖縄で執筆をおっ始めはったんか。12月なので避寒に出かけていたのか。そんな素朴な疑問に池田大作さんはこうお答えになられるのだった(聖教新聞関連記事の要旨)。
 「沖縄は戦争の悲劇にさいなまれた島であったというばかりでなく、そこに同志の力強い凱歌を聞いたからにほかなりません」
 では、偽名本の中身は? まさか「偽名」の示唆するごとく「偽」だらけというわけではないでしょうね。創価学会問題に詳しいジャーナリストの溝口敦さんが本誌03年7月15日号で、法悟空(池田大作さん)が池田大作さんを主役にして綴る『新・人間革命』を論じ、いみじくもこう指摘している。
 「ウソにウソを乗じたところで真実になる道理はなく、単に二重のウソになるだけである」
 としたら、『新・人間革命』に先立つ戸田城聖さん主役の、40年間の星と霜に満ちた『人間革命』のほうはどうなのか。細目は別稿に譲り結論だけ言うなら、ここでも、美食ゆえ肥大しまくった「事実歪曲」と「でっちあげ」と「激烈虚飾」と「ナルシシズム」が入り乱れ狂おしくタップダンスをしている。

 「沖縄」を商売にするんじゃない!

 だから、あらためてこんな疑問が湧く。池田大作さんは「戦争」や「沖縄」をどう捉えているのか。
 99年6月11日付聖教新聞『随筆/新・人間革命』で、彼は「沖縄」をこう語った。
 「幸福の島・沖縄。希望の世紀はわれらの手で」
 「砂浜と青き海を眺めながら、皆様(沖縄在住の池田大作さんの弟子たち)は、広き心で、どれほど多くの悩み疲れた人びとを、激励してきたことか」
 「天も地も、人の心も美しき『光の国』沖縄は、その光彩を嫉妬されたかのごとく、残忍な国家主義によって、幾年(原注=いくとせ)もまた幾年も」
 幸福。希望。砂浜と青き海。光。そして、彼のこよなく愛する嫉妬。ああ、アブラまみれの手でいじられ40星霜、すっかり黒ずみ磨り減らされてしまった哀れな言葉たちよ。
 幸福の島だってさ、砂浜と青き海を眺めながらだってさ、嫉妬されただってさ。よくもまあしゃらしゃらと。「沖縄」を商売にするんじゃないよ!
 ぜひ私の錯覚であってほしいが、沖縄のほうからそんな険しい声が飛んでくるように思えてならない。いずれにしろ、沖縄は、もちろん「嫉妬」されたから蹂躙されたのではない。牧口常三郎さんや戸田城聖さんが毎日遥拝していたミカドの国がミカドを守護するため冷酷に沖縄を捨て去り、ほぼ4人に1人、推定19万人(うち10万人が民間人)を見殺しにしたのである。池田大作さんは『人間革命』の冒頭に「戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない」などと書いたことが得意でたまらないらしい。しかし、戦争が残酷で悲惨なのはあたりまえではないか。ふやけきった能書き駄弁ほどしまつに悪いものはない。彼はそれを口にくわえて半世紀近くも花笠音頭を踊ってきたが、そちらのほうがよほど残酷で悲惨、かつ奇怪ではないか。

 沖縄への侮蔑が横たわっている?

 彼は事実(現実)を見詰めることができないのだ。沖縄は幸福の島。この認識の根底には沖縄の歴史と現実に対するひどい侮蔑が横たわっていると考えられなくもない。
 たとえば、沖縄県統計課によると沖縄の04年10月の完全失業率は8%で、前月比・前年同月比ともに0・3%ポイント悪化したという。また、総務省統計局の労働力調査によると、沖縄の03年の完全失業率は7・8%。98年から8%前後がすっかり常態化してしまい、いずれの年も全都道府県のうちの最悪を記録している。これこそが「池田大作さんの幸福の島」の現実のひとつである。
 池田大作さんの首はやたら太いので振り返ることができないのかもしれない。けれど、当然のことながら首は禿頭を支えるためにだけ存在しているわけではない。
 彼がいくら砂浜と青き海を「眺めて」いようと、彼の勝手だ。しかし、苦しくても振り返れ。そこは鉄条網だ。向こうに米軍基地や豊かな米軍人居住区が広がっている。苦しくても上を見なさい。そこはけっして青くない。なぜなら米空軍の管制領域だからだ。足下を凝視しなさい。その土から血まみれの怨念がいまだ噴き出し、まさに「戦争は残酷です」と呟いているのを聞くだろう。
 さらに、ちょっと首を伸ばすだけで、次の悲惨な現実も目に入るに違いない。
 04年8月13日の午後2時20分頃。米海兵隊の強襲大型ヘリCH53Dが宜野湾市の沖縄国際大学の構内に墜落炎上した。米軍はただちに近隣を完全封鎖し、残骸のすべてを持ち去った。CH53Dはイラク虐殺を展開してきた、また再びイラク虐殺にでかける機だった。沖縄に駐留する米海兵隊や米空軍はイラクにおける無差別殺戮の主力である。
 池田大作さんはこのような沖縄のナマの事態から目をそらし、目前3センチメートルの虚空に描く「嫉妬される」や「幸福の島」などにしがみつき、はては「革命にもいろいろある。政治革命、経済革命、科学革命、芸術の革命、流通や通信の革命」などとうそぶき、あまつさえ傲慢の極点で腕組みし「人間だけが、向上しよう、成長しようと思うことができる」と言い放って恥ずかしげもなく、たとえば蟻や豚やゴリラや全草木をコケにしつつ実際、自民グループがあきれるほど執拗熱心に戦争をたぐり寄せようとしている。いくらウウウッと両足で宇宙を蹴った経験があり寿命がつきかけているといったって、人間も蟻も草木もみんないっしょに死んでくれ、それはないでしょうが。
 ジャーナリストの段勲さんは的確に「池田大作は人間革命ができていない」と断言する。

野田峯雄(のだ・みねお)フリージャーナリスト。1945年生まれ。同志社大学卒。週刊誌や月刊誌等を舞台に国内外の政治・経済・社会問題等をレポート。最近著『闇にうごめく日本大使館』(大村書店)ほか『池田大作金脈の研究』(第三書館)『破壊工作―大韓機“爆破”事件の真相―』(宝島社文庫)など多数。

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