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2003年11月1日
特集/政教一体の行政利用――現世利益のある断面

公明党市議に生活保護不正疑惑
―市議会に調査特別委員会設置

本誌編集部


 同居の義母が生活保護を不正受給?

 色あせたとはいえ、「福祉の党」は公明党が握って放さない看板である。その党の現職市会議員が生活保護の不正疑惑にさらされている。実際は市議宅に同居している義母を、アパートに独り住まいだとして生活保護をもらっていたのだから、ことは穏やかではない。市議会は調査特別委員会を設置。公明党も委員会設置には同意せざるをえなかった。
 宮城県多賀城市。その昔には陸奥の国府がおかれ、坂上田村麻呂ゆかりの地でもある。2万3000世帯6万2000人。仙台市のベッドタウンでもあるこの街が事件の舞台。「河北新報」はじめ「産経」「赤旗」や週刊誌も報じたこともあり、「例の事件で、というと大半の人が即座に反応する」と取材記者がいうほど、話題は市民に広がっている。
 話題の主は根本朝栄議員。公明党議員団(3人)の団長である。議員になる前は創価学会の熱心な活動家として知られていたそうだ。同議員の妻の母(84)が平成元年から15年間にわたり、生活保護を受けていた。不正疑惑は次のような経過で発覚する。
 自治体は定期的に受給者と面会し、生活実態を把握しなければならない。新任のケースワーカーは規則通りにアパートを訪ねるが、何度行っても会えない。試みに根本議員宅を訪ねると、義母はそこで生活していたのである。議員宅で寝起きし、朝食も夕食もとる。昼間の数時間だけ、徒歩5、6分のアパートに行き、給食の宅配やホームヘルパーのサービスを受けていたという。
 市は、アパートでの生活実態はなく、実質的に議員と同居し扶養されていると判断し、6月末で保護を打ち切った。根本議員側もそれを了承したという。実は、市はこれで事をおさめ、内密に処理する方針だったらしい。そうならなかったのは、共産党が独自に不正疑惑をつかんでいたからである。
 実際には議員宅に住みながら保護を受けていることは、近隣では以前から話題になっていた。「おかしいと思いつつ、相手が相手だけに口に出しづらかった」と地元の主婦は語っている。思いあまった一人の女性が、共産党の議員に電話をし、調査を求めた。
 共産党議員が「半信半疑で」現地に行ってみると、問題のアパートは「若者向けのワンルーム。ベッドははしごで上がる中二階。これが老人の部屋かと驚いた」(「赤旗」10月9日)。不動産屋のチラシを見ると、ロフト付きワンルームで約19平方メートル。風呂付きで家賃は3万2000円。地方都市としては安くない。
 共産党が9月、市議会で質問すると、市はあっさりと事実を認めた。同議員はさらに、現職議員がからんでいると指摘し、「放置すれば、不況の中であえぎながら納税している人から怒りの声が出てきて当然」と述べて、過去に逆上った調査と保護費の返還措置を求めた。
 政党名も氏名も伏せた質問だったが、これに公明党の女性議員が「事実無根」「名誉棄損」とかみつき、質問の撤回と議事録からの削除を要求。「そこまで言うのなら」と、共産党議員は氏名を明らかにし、事件の隠蔽工作まであったと新事実を公表した。根本議員が共産党議員に面会を求め、「2年分を返還する用意があるから穏便にしてほしい」という趣旨の申し入れをした。その場所には中立の立場で市議会議長も同席していたという事実である。
 ここまでくれば公明党女性議員も振り上げたこぶしを降ろさざるをえない。撤回要求を取り下げ、自分の発言の議事録削除を求めるはめになってしまった。不正疑惑はこうして公のものとなり、新聞各紙が書き、急速に市民の間に浸透していった。
 市が、根本議員の母親にはアパートでの生活実態はないと判断する決め手となったのは、アパートでの電気や水道の使用量だった。市が市議会に報告した水道の年間使用量は次の通りだ。
 ▽平成10年度=7??
 ▽平成11年度=5??
 ▽平成12年度=4??
 ▽平成13年度=4??
 ▽平成14年度=10??
 普通、単身者が1ヵ月で使う量しか1年間に使っていない。アパートでは風呂も使わず炊事も洗濯もしていない。つまり生活していなかったのである。根本議員は発覚後、「やむを得ない事情で、食事を一緒にしたり泊まらせたりしたことはある。それでも昼間は帰らせていたし、うちで引き取るまでの経過であって、不正受給ではない」(「産経」9月25日)など弁明している。
 しかし日常的に寝食をともにすることを、世間では「同居」というのだ。「うちでひきとるまでの経過」が5年間も続くという理屈も通用する訳がないだろう。
 市議会調査特別委員会で市の保健福祉部長は、判明した生活実態について「一般的には保護の継続はありえない」と答えている。ありえないことが少なくても5年間は続いていたのである。この5年間に支給された保護費は、医療費を含めて約1500万円に達する。
 平成9年度以前はどうだったのか。市に水道使用量のデータが保存されていないだけであり、それ以前も“シロ”だったという証拠はどこにもないのである。
 この15年間、義母は単身でアパート暮らしであり、根本議員側には扶養の力がないと報告されてきたからこそ、生活保護の対象になってきた。調査特別委員会で市側は、この間に根本夫妻が提出した扶養届書に食事や入浴を提供している事実は「書いていなかった」と明言した。生活保護法第85条には次の通り書かれている。
 「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。但し、刑法に正条があるときは、刑法による」
 それにしても市は15年間もなぜ支給を継続してきたのか。共産党議員に電話してきた前出の女性は「議員が家族にいると見て見ないふりをするのか」と怒りをぶつけたという。「あんなことが許されるなら、うちもバアさんをアパートに住まわせたことにして保護をもらうぞ」など、怒りの声が市民から噴き出している。市議会調査特別委員会の活動は始まったばかりである。

 
 行政を利用した“功徳調達”か

 「不正はこれだけなのか」という市民の声も少なくない。生活保護受給者には創価学会員や公明党の口ききによる人が多いという“うわさ“が根強くあるからだ。そしてこれは、多賀城市だけではなく、全国各地で言われていることでもある。
 ある市の担当部長はこう言う。
 「生活保護申請の紹介は、各党議員から持ち込まれる。大概は『この人の話をよく聞いてやってくれ』という紹介で、判断は我々にまかされるが、あそこ(公明党)は違う。市が保護しないと判断しても『ではどうすれば受けられるのか』とくいさがる」
 「熱心」を通り越している。要するに「しつこい」のだという。事実、公明党議員はそれを“実績”として誇ってきた。なぜ熱心なのか――。
 公明党の政権入りの直後、全日本仏教会の野生司祐宏総務部長(現・全国青少年教化協議会事務総長)が公明党議員の任務と創価学会の教義について、こんな分析をしている(浄土真宗本願寺派『宗報』)。
 「現世利益という宗教上の教義を、行政サービスの利用で実現させるという手法が、学会を急速に膨脹させた」「集票という内容の宗教活動の成果が、政治的利権という目に見える形で示される効用ははかり知れない」
 公明党議員の口きき、斡旋による「行政サービスの利用」は創価学会の教義である現世利益=功徳の効果を持つ。公明党議員の基本任務の一つが行政を利用した“功徳調達”だという分析である。
 「それだけではない」というのは、数年前まで県の中堅的活動家だった元創価学会員だ。自らの体験を通して、こう語る。
 「条件さえあえば、学会員に生活保護を受けさせる。その学会員は信心のおかげと、信仰をより深める。同時に、生活の心配をせずにF取り(選挙での集票活動)に励まさせることができる。要するに公費で運動員を養うという形だ」
 同元学会員によると「以前はそうでもなかった」そうだ。以前は、生活に困った会員には、生活を改めさせることに力を注いだ。それが“正直者はバカをみる”としかいえないような風潮に変わってきたという。「学会内では“うまくやれ”という言い方をよくする。生活保護などの行政サービスも“うまく使う”。そんな風潮になってきた」と。
 創価学会は数年前、従来の「地域部」を「地域本部」に格上げした。地域社会で「『友好活動』を広範囲に推進する」(「聖教新聞」99年7月6日)のが狙い。町内会、自治会、老人会、PTAから消防団など地域住民組織の役員に積極的に進出する。「地域にはりめぐらした情報集中システムであり、住民組織をこの手に握るという地域支配戦略」(元学会職員)である。
 生活保護にもかかわる民生委員や保護司なども当然、ターゲットにされている。こうした「地域友好」活動を全国的に展開している。その意味で多賀城市の事件は、一地方都市の特異な事件とはいえない要素をはらんでいるのである。

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